帰り来ぬ青春
Hier Encore

  ひと頃よく耳にした言葉の一つに、「勝ち組み・負け組み」というのがありました。この格差は、第2次安部政権の成立以来ますます拡がっているようです。アベノミクスの恩恵を受ける富裕層と受けることの出来ない低所得層に、つまり「勝ち組み・負け組み」に。
  勝ち組みに入れた人には問題はないのでしょうが、負け組みに入ってしまった人には悲惨極まりない現実が待っています。貧困の再生産などが原因で落ちこぼれて希望を無くした少年、ブラック企業以外には仕事が見つからない若者、女房も持てずに老いた親と暮らす農家の息子、ローンを抱えてリストラされた中高年、明日の生活も分からない貧困老人………
  しかしながら、人生には負け組みの人にしか理解できない奥深い部分もあるはずです。映画の「寅さん」の人生などは負け組みの典型ですが、あの生き方は多くの人の共感を呼び起こします。そして負け組みの人生には、悲しみと喜びが混ぜ合わさったような複雑な楽しさ(辛さ)があります。

  今回は、「帰り来ぬ青春」(Hier Encore) という曲を取り上げてみます。Charles Aznavour が自ら作詞・作曲して歌った曲で、若気の至りで「馬鹿なことをして」、「人生を台無しにした」男の悲しみを美しいメロディーに乗せてさらりと歌い上げています。

 Hier encore   
 過ぎ去りし日よもう一度   
 J'avais vingt ans
 オレは20歳で
 Je caressais le temps   
 オレはその時代を弄んでいた   
 Et jouais de la vie
 そして人生を楽しんでいた
    …………………………………
 Mais j'ai perdu mon temps   
 でもオレは若き時代を失ってしまった   
 À faire des folies
 馬鹿なことをやって
    …………………………………
 Car mes amours sont mortes   
 オレの愛する女たちは   
 Avant que d'exister
 この世に存在する前に死んでしまい
 (愛する女など、始めから存在するはずもなく)
 Mes amis sont partis   
 友人たちは去ってしまい   
 Et ne reviendront pas
 戻って来ないだろうから
    …………………………………
 Du meilleur et du pire   
 よいものと悪いものの中から   
 En jetant le meilleur
 よいものを投げ捨てて
 J'ai figé mes sourires   
 オレは微笑を固まらせ   
 Et j'ai glacé mes pleurs
 オレは涙を凍らせた
 Ou sont-ils à présent   
 いま何処に   
 A présent mes vingt ans?
 いま何処にオレの20歳はあるのだろうか?


  若気の至りを嘆いてばかりのような歌詞ですが、 hier encore なのです。そして「いま何処に」と捜し求めている若き日々は、楽しかった日々なのです。これこそ、まさに人生 (C'est la vie) なのです。
  現実を知らずに、「強い」とか「取り戻す」などという美辞麗句に踊らされてはなりません。

  Hier Encore

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  2005/09    2014/11

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